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「日記帳」のあらすじ
というわけで今回は、江戸川乱歩の「日記帳」という作品について紹介します!
江戸川乱歩といえば、日本では有名な推理作家ですよね!
「名探偵コナン」の主人公・コナンの「江戸川」という苗字も、実は乱歩からとられたもの、ということは、きっと多くの人が知っていることと思います。
「日記帳」も乱歩節が炸裂した作品となっており、ちょっとだけ頭を働かせて推理する場面も出てきます。
それでは、まず「日記帳」のあらすじをざっくり見ていきましょう!
あらすじ
語り手である兄は、つい先日、病気で亡くなったばかりの弟の書斎で、彼の死を悼んでいました。
その書斎で見つかった弟の日記帳を何気なくめくってみると、そこには真面目で神経質な弟らしい、信仰や青春の悩みなどが綴られていました。
日記帳を見るに、きっと弟は恋も知らずに亡くなったに違いない……と弟を憐れむ兄でしたが、あるページで不意に女性の名前が登場しました。
女性の名前は、北川雪枝(きたがわゆきえ)。
それは、兄弟たちの遠縁にあたる娘の名前でした。
弟は雪枝に恋していたのかもしれない、と思い至った兄ですが、日記帳には弟と雪枝がハガキをやり取りする受信・発信の記録しか記されておらず、2人の間で具体的にどのようなやり取りがあったのかまでは分かりません。
そこで弟の書斎を漁ってみると、大事そうにしまわれていた、雪枝からのハガキを発見しました。
ハガキを見ているうちに、ふと兄は、雪枝からのハガキが全部で11通あることに気が付きました。
日記帳で確認したハガキの受信・発信履歴では、雪枝からのハガキは全部で10通だったはず。
雪枝から最後に送られてきたハガキの日付は、5月25日。
改めてその日の弟の日記を読み返してみると、そこには「失望」「自分はあまりに弱すぎた」という旨の一文が。
それ見た兄は、改めて、2人がやり取りしたハガキの枚数や送られた日付から、弟や雪枝の「想い」について推理していきます。
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「日記帳」の見どころは?
「日記帳」の見どころは、なんといっても弟と雪枝が互いに送り合った「暗号」の秘密です!
まずは、弟が雪枝に送った「暗号」について見ていきましょう。
弟が送った「暗号」は?
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4月:5日、25日
5月:15日、21日
3月は、9日、12日、15日、22日と、わりとコンスタントにハガキを送っていた弟ですが、4月は5日と25日、5月は15日と21日だけと、送る頻度にばらつきが見られます。
しかも、雪枝からのハガキは11通あるのに、弟からは8通しか出していないようでした。
普通なら、恋する女性には、送られてきた数と同じ分だけ、返事を返しそうなものですよね。
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弟がハガキを送った日付を眺めるうちに、兄は、その日付が「いろは」や「あいうえお」、「ABC」などに当てはまりはしないかと、順に試していくことを思い付きました。
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そこでピタリと当てはまったのが、「ABC」。
アルファベットの順番で、9個目は「I」、12個目は「L」……。
このように、日付の数字をアルファベットに対応させていった結果、浮かび上がったのは「I LOVE YOU」という文章なのでした。
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弟は、元来恥ずかしがり屋で臆病、けれどそれでいて、とても高いプライドを持っていた青年でした。
そうした性質ゆえ、彼は「もし告白が失敗したら?愛する雪枝さんに拒絶されてしまったら?」という恐れと羞恥に支配されていったのです。
恋を打開けないではいられない。しかし、若し打開けてこばまれたら、その恥かしさ、気まずさ、それは相手がこの世に生きながらえている間、いつまでもいつまでも続くのです。何とかして、若し拒まれた場合には、あれは恋文ではなかったのだといい抜ける様な方法がないものだろうか。
弟はこう考え、そして苦心の結果生み出されたのが、あのハチャメチャに分かりづらい、日付での告白だったのです。
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そうして送った日付での恋文でしたが、残念ながら雪枝さんには気付いてもらえませんでした。
そして不幸なことに、弟は「雪枝さんは日付での告白に気付いているけれど、あえて当たり障りのないハガキを返事としてよこすことで、告白を断っているのだ」と勘違いしたまま、絶望して病気にてこの世を去っていったのです……。
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雪枝からの「暗号」は?
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そう、雪枝は、弟に出した11通のハガキすべて、切手を斜めに貼っていたのです。
これは、とある文学雑誌に紹介された、「秘密通信」のやり方でした。
切手を斜めに貼る、たったそれだけで、「私はあなたに好意を抱いています」と言外に伝えられる方法なのでした。
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若し私の推察が誤らぬとすれば、彼等はお互に恋しあっていながら、その恋を訴えあってさえいながら、しかし双方とも少しも相手の心を知らずに、一人は痛手を負うたままこの世を去り、一人は悲しい失恋の思いを抱いて長い生がいを暮さねばならぬとは。
それは余りにも臆病過ぎた恋でした。
「臆病過ぎた恋」……この小説の本質を突く、印象的なフレーズですね。
読んでいる分には、弟のやり方に歯がゆさを覚えてしまいますが、でも実際に弟の立場になったら……ということを想像すると、やはりああいうやり方をとってしまうのかな、という気持ちにもなります。
「日記帳」のココがエモい!
「日記帳」のエモさ……というか、今回は「怖さ」について紹介しましょう。
互いを想いながらも、互いの気持ちを理解できずに死別してしまった男女、という構図だけでも作品として素晴らしいのですが、実はこの「日記帳」、衝撃のラストが用意されているのです。
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それでは、「日記帳」の衝撃的なラストシーンを見てみましょう。
弟と雪枝の「秘密の恋」を知ってしまった兄は、「とり返しのつかぬ事実に触れてしまった」ことを激しく後悔します。
私はその時の心持を、どんな言葉で形容しましょう。それが、ただ若い二人の気の毒な失敗をいたむばかりであったなら、まだしもよかったのです。しかし、私にはもう一つの、もっと利己的な感情がありました。そして、その感情が私の心を狂うばかりにかき乱したのです。
私は熱した頭を冬の夜の凍った風にあてる為に、そこにあった庭下駄をつっかけて、フラフラと庭へ下りました。そして乱れた心そのままに、木立の間を、グルグルと果てしもなく廻り歩くのでした。弟の死ぬ二ヶ月ばかり前に取きめられた、私と雪枝さんとの、とり返しのつかぬ婚約のことを考えながら。
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私はこのラストを読んだ時、非常~~~~に衝撃を受けました……。
まさか、今まで作品の語り手であり、弟と雪枝の密やかな恋の傍観者でしかなかった兄が、実はこれから雪枝と結婚する男性だったなんて……。
この最後のどんでん返し、さすがは江戸川乱歩といったところです。
だから兄は、弟と雪枝の事情を知り、激しく後悔したのですね。
これから自分の妻となる女性が、実は弟のことを慕っている、なんて、あまり知りたくはないですからね……。
兄と雪枝は、これからどのような結婚生活を送るのか……非常に衝撃的かつ、これからのことを思わず想像させられてしまう一文で、「日記帳」は幕を閉じます。
まとめ
以上、江戸川乱歩の「日記帳」の紹介でした!
ハガキのやり取りに隠された暗号に「なるほど!」と膝を打ち、弟と雪枝の悲しいすれ違いに胸が軋み、ラストではこれまでの内容が思わず吹っ飛んでしまいそうになるほどの衝撃が待ち受ける……という、非常にエンタメ色の強い、ジェットコースターのような作品です。
引用させていただいた本文からも分かるように、昔ながらの難しい言い回しなども一切なく、本当にサラッと20分ほどで読めるので、皆さんもぜひ「日記帳」で乱歩の世界を味わってみてくださいね!
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