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坂口安吾「夜長姫と耳男」を徹底解説!サイコパスな姫に魅入られた青年の運命は?

今回は、坂口安吾「夜長姫と耳男」について紹介します!

「耳男」は、「みみおとこ」ではなく「みみお」と呼びます!本作の主人公のお名前です。

坂口安吾といえば、「桜の森の満開の下」が有名ですが、私的には「夜長姫と耳男」も負けず劣らずの名作でして……!

純子

「夜長姫と耳男」は、端的に紹介するとサイコパスなお姫様に気に入られた仏師の青年が、彼女の狂気に圧されながらも必死に抗おうとする物語よ!

蜜柑

なんだそりゃ!さっぱり分からねえ……!

純子

一種の鬼退治物語とも論じられている「夜長姫と耳男」、さっそく読み解いていきましょう!

「夜長姫と耳男」のあらすじ

蛇のイメージ画像

それではまず、「夜長姫と耳男」のあらすじについて紹介します!

あらすじ

 
 

うさぎのように長い耳を持つ20歳の青年・耳男(みみお)は、飛騨随一といわれる匠の弟子。

 

ある時、耳男は師匠に推薦され、師匠の代わりに夜長の里へ赴き、その里の姫のために弥勒菩薩を彫ることに。

 

ところが、初めて顔を合わせた際に、無邪気な姫からコンプレックスである長い耳を指摘され、その場の笑いものにされたことで、耳男は逆上し、弥勒菩薩ではなく、姫を怖がらせるための化け物の像を造ることを決意。

 
 

しかしその後、姫によって耳を切り落とされる(後ほど詳しく解説)事件などが起こり、耳男は姫の中に「純粋な狂気」が秘められていることに気付く。耳男の姫への恨みと恐れは募るばかりだった。

 

姫の無垢な狂気に圧されそうになった時には、蛇の生き血を吸い、残った血を作りかけの像にぶちまけ、その亡骸を天井に吊るし、必死に自分を奮い立たせた耳男。

 

そうして3年もの年月をかけて作った恐ろしい化け物の像を、姫は怖がるどころか、ニコニコ笑って「とても気に入った」と述べるのだった。

 
 

無邪気な姫の内に潜む恐ろしい狂気に怯えながらも、なぜか耳男は彼女に惹かれてやまなかった。

 
 

そのうち、里では病が蔓延し、日々多くの死者が出るようになった。

 

姫は耳男の作業場である高楼に上り、そこから人が死ぬさまを嬉しそうに眺めていた。

 

姫に言いつけられた通り、毎日蛇の亡骸を高楼に吊るしていた耳男だったが、その行為が姫の「里の人間が全員死ぬように」という願掛けなのだと気付くと、「このままでは姫が村の人間を皆殺しにしてしまう」と悟り、意を決して姫を殺害する。

 
 

息を引き取る間際、姫は笑ったまま、次のように言った。

 
 

「好きな物は咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして……」

 
 

姫の目が閉じるのを見て、耳男もそのまま気を失ってしまった。

ここまでが、「夜長姫と耳男」のあらすじです。

一般的な物語における「姫」という存在は、主人公を含めた周囲から、守られ愛されるポジションにいるものですが……。

蜜柑

新しすぎんだろ……主人公が姫を殺しちまう、なんて……。

純子

そこが、「夜長姫と耳男」の最大の魅力でもあるのだけどね……。

それではここから、「夜長姫と耳男」の見どころについてじっくり見ていきましょう!




「夜長姫と耳男」の見どころ

弥勒菩薩のイメージ画像

「夜長姫と耳男」の見どころは、姫の無垢な狂気と、それに翻弄される耳男の姿です!

蜜柑

狂気狂気って言ってっけど、具体的にどんなヤツなのだよ?夜長姫って。

純子

そうね……今風の言葉で言い換えれば、夜長姫はヤンデレサイコパス、ってところかしら。

蜜柑

その2つの要素だけで、めちゃくちゃろくでもなさそうなヤツってのが伝わってくるぜ……。

まず、物語の冒頭で使者・アナマロに夜長の里に連れてこられた耳男なのですが、里に来た匠は、耳男だけではありませんでした。

他に、青笠や古釜という匠もおり、耳男を含めたその3人で、夜長姫の像をそれぞれ造り、姫が最も気に入る像を造った者には、褒美が与えられることになっていたのです。

純子

その褒美の一つに、エナコという美人の女性もいたわ。ただこのエナコ、なかなかに気が強くてね……。とあるきっかけで耳男に腹を立て、耳男の長い耳を片方、切り落としてしまったの。

蜜柑

!?!?

これだけ聞くと、「いやサイコパスなのエナコのほうじゃん!」と思われるかもしれませんが、客人である耳男にそのような無礼を働いたエナコは、夜長の長者(夜長姫の父)の意向により、処刑される運びとなります。

その際、被害に遭った耳男にエナコの首を落とす権利を与えられるのですが、ここで耳男は「東国の森に棲む虫ケラに耳をかまれただけだと思えば腹も立たない道理じゃないか」と発言。

蜜柑

簡単に言うと?

純子

「こんな女に耳を切られた程度、俺にとっちゃなんてことねえよ!」ってところね。事実、耳男の憎悪の念は、最初に自分の耳をからかった夜長姫に向けられていたから、エナコのことまで気を回す余裕がなかったの。

蜜柑

その感覚も、常人には理解しがてーけどな……。

エナコに耳を切られても、「虫ケラに噛まれたようなもの」と断言した耳男でしたが、ここでその発言を聞きつけた彼女が登場します。

そう、夜長姫です。

「お前、エナコに耳を斬り落されても、虫ケラにかまれたようだッて? ほんとうにそう?」
 無邪気な明るい笑顔だとオレは思った。オレは大きくうなずいて、
「ほんとうにそうです」と答えた。
「あとでウソだと仰有ッてはダメよ」
「そんなことは言いやしません。虫ケラだと思っているから、死に首も、生き首もマッピラでさア」

耳男のこの言葉を受けると、姫はにっこり笑って、エナコに言いました。

「エナコよ。耳男の片耳もかんでおやり。虫ケラにかまれても腹が立たないそうですから、存分にかんであげるといいわ。虫ケラの歯を貸してあげます。なくなったお母様の形見の品の一ツだけど、耳男の耳をかんだあとではお前にあげます」

そう、なんと夜長姫、耳男の言葉を真に受け(たフリをして?)、エナコに向かって耳男の残ったもう1つの耳を切り落とすよう、無邪気に命令したのです

姫の命令には逆らえないので、エナコは大人しく従い、耳男の耳を再び切り落としてしまうのでした。

純子

この時の、夜長姫の反応がまたすごいのよね……。自分で耳男の耳を切り落とすよう指示しておきながら、いざ実際に切り落とされると、夜長姫はこんな反応だったの。

オレの耳がそがれたとき、オレはヒメのツブラな目が生き生きとまるく大きく冴えるのを見た。ヒメの頬にやや赤みがさした。軽い満足があらわれて、すぐさま消えた。すると笑いも消えていた。ひどく真剣な顔だった。考え深そうな顔でもあった。なんだ、これで全部か、とヒメは怒っているように見えた。すると、ふりむいて、ヒメは物も云わず立ち去ってしまった。
ヒメが立ち去ろうとするとき、オレの目に一粒ずつの大粒の涙がたまっているのに気がついた。

耳男の耳が切られるまでは、上機嫌にニコニコ笑っていた夜長姫でしたが、いざ耳が切られると、途端にそのことに興味をなくしてまったのです

蜜柑

ひでえ!テメーで切らせたくせしやがって!しかも母親の形見で……!

純子

この辺りの、いわば素直な反応が、姫の無邪気さというか、幼さを表しているのよね……。ちなみに姫は、この時点で13歳よ。

蜜柑

その年齢でこんなひでえこと……末恐ろしいガキだな。

純子

姫の異常性が垣間見えるエピソードは、この他にもたくさんあるの。全部紹介するとキリがないから、ざっくり箇条書きでお伝えするわね!
  • 寝ぼけた耳男がいつまで経っても自分の小屋から出て来ないので、小屋ごと燃やそうとする
  • 耳男の部屋に蛇の亡骸が吊るしてあるのを見て感嘆するが、「でも、もう、燃してしまうがよい」と結局燃やしてしまう
  • 耳男が憎悪と怨念を込めて作り上げた化け物の像を、「他のものの百層倍、千層倍も、気に入りました」と笑顔で言う
  • エナコが死んだ際に着ていた着物を仕立て直し、それを耳男に着せてニコニコしている
  • 人が死ぬのを見たり聞いたりするといちいち嬉しそうに報告してくる
  • 耳男に蛇の亡骸を集めさせ、それを「里の人間が全員死ぬように」という願掛けの道具にする

蜜柑

いや、純粋に怖え

純子

でしょう!どう考えても姫は異常なの。けれど、耳男はどうしてか、そんな姫に強烈に惹かれてしまうのよね……。

普通、夜長姫のような女の子がいたら、怖いですよね。

匠としての仕事をすっぽかし、里を逃げ出したって不思議ではありません。

かくいう耳男も、もちろん夜長姫のことを恐れてはいるのですが……けれどなぜか、彼女を嫌うこともなく、離れることもしませんでした。

耳男はただ、彼女の狂気に圧されまいと、必死にノミを振るうばかりだったのです。

オレは小屋にとじこもってノミをふるッていただけだが、オレがノミをふるう力は、オレの目に残るヒメの笑顔に押されつづけていた。オレはそれを押し返すために必死に戦わなければならなかった。
オレがヒメに自然に見とれてしまったことは、オレがどのようにあがいても所詮勝味がないように思われたが、オレは是が非でも押し返して、怖ろしいモノノケの像をつくらなければとあせった。

オレはヒメの笑顔を押し返すほど力のこもったモノノケの姿を造りだす自信がなかったのだ。オレの力だけでは足りないことをさとっていた。それと戦う苦しさに、いッそ気が違ってしまえばよいと思ったほどだ。オレの心がヒメにとりつく怨霊になればよいと念じもした。しかし、仕事の急所に刻みかかると、必ず一度はヒメの笑顔に押されているオレのヒルミに気がついた。
三年目の春がきたとき、七分通りできあがって仕上げの急所にかかっていたから、オレは蛇の生き血に飢えていた。オレは山にわけこんで兎や狸や鹿をとり、胸をさいて生き血をしぼり、ハラワタをまきちらした。クビを斬り落して、その血を像にしたたらせた。
「血を吸え。そして、ヒメの十六の正月にイノチが宿って生きものになれ。人を殺して生き血を吸う鬼となれ」
それは耳の長い何ものかの顔であるが、モノノケだか、魔神だか、死神だか、鬼だか、怨霊だか、オレにも得体が知れなかった。オレはただヒメの笑顔を押し返すだけの力のこもった怖ろしい物でありさえすれば満足だった。

蜜柑

なんか、すげーな、耳男……。

純子

文章だけでも、ものすごい気迫が伝わってくるようよね……!まぁ、耳男がこんなに必死で造った像も、姫の笑顔の前には無力だったわけだけど……。

姫の異常性や、耳男の仕事ぶりについて分かったところで、今度は「夜長姫と耳男」のエモポイントについても見ていきましょう!

「夜長姫と耳男」のココがエモい!

ココがエモい!のイメージ画像

「夜長姫と耳男」のエモポイントは、耳男が抱く姫への感情の推移と、姫の最期の言葉です!

耳男が必死に造ったバケモノ像を気に入った夜長姫は、今度は耳男に自分のミロク像を造らせようとします。

姫のミロク像を彫るうちに、耳男は「姫の笑顔の秘密」に気が付きました。

オレのミロクはどうやらヒメの無邪気な笑顔に近づいてきた。(略)一点の翳りもなく冴えた明るい無邪気な笑顔。そこには血を好む一筋のキザシも示されていない。魔神に通じるいかなる色も、いかなる匂いも示されていない。ただあどけない童女のものが笑顔の全てで、どこにも秘密のないものだった。それがヒメの笑顔の秘密であった。

蜜柑

どういうことだよ?

純子

うーん、簡単に言うと、「姫の笑顔には秘密がない」ってことね。

蜜柑

はぁ?

純子

耳男の目に映る姫の笑顔。ただただ無邪気で、一見しただけでは狂気を孕んでいるようにはとても見えない笑顔。ただそれだけが、夜長姫という女の子のすべてなの。

蜜柑

分かるような、分からねーような……。

この頃、里には疫病が蔓延し、毎日多くの人が亡くなりました。

しかし、耳男の造ったバケモノ像を飾っていた城の中だけは、ただの1人も死者が出なかったのです。

「耳男があまたの蛇を生き裂きにして逆吊りにかけ生き血をあびながら咒いをこめて造ったバケモノだから、その怖ろしさにホーソー神も近づくことができないのだな」と、夜長の長者はご機嫌でした。

そんな評判をまるで気にも留めず、黙々とミロク像の制作を続ける耳男でしたが、ある日、耳男の仕事場を訪れた夜長姫から、こんなことを言われてしまいます。

「耳男よ。お前が楼にあがって私と同じ物を見ていても、お前のバケモノがホーソー神を睨み返してくれるのを見ることができなかったでしょうよ。お前の小屋が燃えたときから、お前の目は見えなくなってしまったから。そして、お前がいまお造りのミロクには、お爺さんやお婆さんの頭痛をやわらげる力もないわ」

蜜柑

???サッパリ意味が分からねー……。

純子

つまり、姫はね、「バケモノ像を造っていた時の気迫はどこにいったの?そんな穏やかな気持ちで造ったミロク像なんて、何の魅力もないわよ」って言っているわけ。

蜜柑

それって、アドバイス……なのか?

純子

どうかしらね。ただ確かにこの頃の耳男は、バケモノ像を造っていた時より、すごく落ち着いた精神状態だったわ。

このあどけない笑顔がいつオレを殺すかも知れない顔だと考えると、その怖れがオレの仕事の心棒になった。ふと手を休めて気がつくと、その怖れが、だきしめても足りないほどなつかしく心にしみる時があった。

そのころに比べると、いまのオレはヒメの笑顔に押されるということがない。イヤ、押されてはいるかも知れぬが、押し返さねばならぬという不安な戦いはない。ヒメの笑顔が押してくるままの力を、オレのノミが素直に表すことができればよいという芸本来の三昧境にひたっているだけのことだ。

「その怖れが、だきしめても足りないほどなつかしく心にしみる」という一文から、耳男は自身が姫の笑顔に怯え、必死にバケモノ像を彫っていた時のことを懐かしく思っていることが分かります。つまり、ここ最近は姫に対して恐れを抱いていない、ということになりますね。

「芸本来の三昧境」に浸っている耳男でしたが、しかし自身はその落ち着いた精神状態を、「自らの成長」と捉えています。

純子

そんなところに、姫からのダメ出しだったからね……。耳男も、姫に指摘されると、途端に自分のミロク像に自信がなくなってしまったの。

「あのバケモノには子供を泣かせる力もないが、ミロクには何かがある筈だ。すくなくともオレという人間のタマシイがそッくり乗りうつッているだろう」
オレは確信をもってこう云えるように思ったが、オレの確信の根元からゆりうごかしてくずすものはヒメの笑顔であった。オレが見失ってしまったものが確かにどこかにあるようにも思われて、たよりなくて、ふと、たまらなく切ない思いを感じるようになってしまった。

その後、一旦は落ち着いた流行り病が、またしても里を襲います。

毎日大勢の死者が出るものの、姫は城の高楼から里を見下ろし、とても嬉しそうにこんなことを呟きます。

「ホーソーの時は、いつもせいぜい二三人の人がションボリ死体を運んでいたのに、今度は人々がまだ生き生きとしているのね。私の目に見える村の人々がみんなキリキリ舞いをして死んで欲しいわ。その次には私の目に見えない人たちも。畑の人も、野の人も、山の人も、森の人も、家の中の人も、みんな死んで欲しいわ」

このような発言をする姫を見て、耳男は「オレはヒメが憎いとはついぞ思ったことがないが、このヒメが生きているのは怖ろしいということをその時はじめて考えた」と語っています。

そんな毎日が続いたある日のこと、耳男の中でとうとう、姫が生きていることへの危機感が爆発します。

「耳男よ。ごらん! あすこに、ほら! キリキリ舞いをしはじめた人がいてよ。ほら、キリキリと舞っていてよ。お日さまがまぶしいように。お日さまに酔ったよう」
オレはランカンに駈けよって、ヒメの示す方を見た。(略)一人の農夫が両手をひろげて、空の下を泳ぐようにユラユラとよろめいていた。(略)バッタリ倒れて、這いはじめた。オレは目をとじて、退いた。(略)
「ヒメが村の人間をみな殺しにしてしまう」
オレはそれをハッキリ信じた。オレが高楼の天井いっぱいに蛇の死体を吊し終えた時、この村の最後の一人が息をひきとるに相違ない。

オレが逆吊りにした蛇の死体をオレの手が斬り落すか、ここからオレが逃げ去るか、どっちか一ツを選ぶより仕方がないとオレは思った。オレはノミを握りしめた。そして、いずれを選ぶべきかに尚も迷った。そのとき、ヒメの声がきこえた。
「とうとう動かなくなったわ。なんて可愛いのでしょうね。お日さまが、うらやましい。日本中の野でも里でも町でも、こんな風に死ぬ人をみんな見ていらッしゃるのね」
それをきいているうちにオレの心が変った。このヒメを殺さなければ、チャチな人間世界はもたないのだとオレは思った。
ヒメは無心に野良を見つめていた。新しいキリキリ舞いを探しているのかも知れなかった。なんて可憐なヒメだろうとオレは思った。そして、心がきまると、オレはフシギにためらわなかった。むしろ強い力がオレを押すように思われた。

蜜柑

とうとう……殺す決心がついたんだな。

純子

ええ。そしてここから、一気にラストシーンまで駆け抜けるわ。

オレはヒメに歩み寄ると、オレの左手をヒメの左の肩にかけ、だきすくめて、右手のキリを胸にうちこんだ。オレの肩はハアハアと大きな波をうっていたが、ヒメは目をあけてニッコリ笑った。
「サヨナラの挨拶をして、それから殺して下さるものよ。私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに」
(略)
するとヒメはオレの手をとり、ニッコリとささやいた。
「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして……」
ヒメの目が笑って、とじた。
オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。

ここで肝となるのは、やはり姫の最期の言葉ですね。

蜜柑

相変わらず、どういう意味が全然分かんねーけど……。「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならない」って、どういうことだよ?

純子

文字通りの意味よ。「好きなもの」に対して穏やかな気持ちでいるのではなくて、姫の笑顔を恐れてバケモノ像を造った時みたいに、常に「咒うか殺すか争うか」、そういう死に物狂いの姿勢でいなさい、ってこと。

蜜柑

だから、腑抜けになった耳男の造るミロク像を「ダメ」って言ってるんだな……。

純子

そういうことね!そして一番注目したいのが、「いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして」という言葉よ。

蜜柑

要は、「いつも一生懸命仕事しろ、怠慢すんな」ってことだろ?

純子

ええ、言っている意味はその通りなのだけれど……。蜜柑ちゃんは、どうして夜長姫が最期に、こんな激励じみたことを言ったのだと思う?

蜜柑

どうしてって……そりゃまぁ、耳男の腕を見込んでのことだったんじゃねーのか?あの血も涙もないようなお姫サマが、最期にこんなこと言うなんて意外だけどよ。

純子

そう!そこなのよ!あの自分の快楽しか追求しない夜長姫が、今わの際に、耳男に仕事をするうえでのアドバイスを送ったの。自分はもう死んでしまうから、これからの耳男の仕事ぶりを見届けることはできないにも関わらず、よ!

蜜柑

な、なんでそんなこと?

純子

ここをどう読み解くかで、「夜長姫と耳男」という物語の意味も、結末も、きっとずいぶん変わってくることでしょうね……。

私個人としては、夜長姫が耳男を最期に激励したのは、「耳男の腕を見込んだ=耳男に期待している=耳男に関心があった」、ということなのかなと考えています。

里の人間が全員死ぬようにと祈るような姫ですから、当然「情」などがあるとはとても思えませんよね。

しかし、耳男に胸を刺され、最後の最期に口にした言葉が、耳男の「これから」に期待するような内容だった……。

もしかしたら、夜長姫も耳男と過ごすうちに、彼に情が湧いていったのでしょうか。

作中ではずっと、それこそバケモノのように描かれていた夜長姫でしたが、その命が尽きるまさに最期の瞬間に、初めて「人間らしさ」が芽生えたのかもしれませんね。

まとめ

以上、坂口安吾の「夜長姫と耳男」についての紹介でした!

私は「夜長姫と耳男」が大好きすぎるので、正直とてもこんな1記事ではその魅力を存分にお伝えすることができませんでした……。

皆さんも一度「夜長姫と耳男」を読んで、どのような印象を受けたか、どのような感想を抱いたかなど、ぜひ私に教えてくださいね!

昔の作品特有の難しい言い回しもありませんし、耳男の「オレ」という一人称で話が進んでいくので、非常にとっつきやすい小説ですよ!

蜜柑

にしても、分かんねーヤツだなー耳男。

純子

あら、どうして?

蜜柑

だってそうだろ?姫はあんなサイコパスなのに、それでも惹かれちまうとか。

純子

前から思っていたけど……蜜柑ちゃんって、本当にまっすぐな子よね。

蜜柑

な、なんだよそれ、バカにしてんのか?

純子

ううん、そんなことないわ!むしろ、蜜柑ちゃんにはこのまままっすぐに、すくすくと育ってほしいな、って思ったというか……蜜柑ちゃんには、屈折した愛情の物語はまだ早かったかな、って思ったというか……。

蜜柑

おい!結局バカにしてんじゃねーか!!つーか親みたいな言い方すんじゃねーー!!

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