純子
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「外科室」のあらすじ
というわけで、今回は泉鏡花の「外科室」という短編小説を紹介します!
タイトルからして厳めしい印象を受けてしまうかもしれませんが、このお話では純子の言った通り、これ以上ないほどの「純愛」が描かれています。
それでは、さっそくあらすじを見ていきましょう!
あらすじ
語り手である画家の「私」は、ほんの好奇心から、友人である医師の高峰が執り行う手術を見学させてもらうことになりました。
手術を受ける患者は、伯爵夫人という高貴な身分の女性でした。
いざ手術を始める段になると、伯爵夫人は「どうか麻酔剤を打たないでほしい」と言い始めます。
麻酔を打たなければならないなら病気が治らなくてもいい、とまで言う伯爵夫人にその理由を聞いてみれば、「自分にはひとつ秘密がある。麻酔を打たれるとうわごとを言ってしまうという話を聞くから、それが怖くて仕方ない」と言うのです。
夫人の家族や看護師は、必死に彼女を説得しますが、実際に手術を行う高峰自身が、麻酔なしでの執刀を決意。
しかし、実際に手術を始めてみると、やはり夫人の顔は激痛に歪みます。
「痛みますか」と尋ねる高峰に、女性は「いいえ、あなただから」と返しますが、彼女はそのままメスを握る高峰の手に自分の手を添えると、「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」と叫び、自らの胸を切り、自害してしまうのでした。
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「外科室」の見どころ
「外科室」の見どころは、高峰と伯爵夫人の、知られざる密やかな愛が見え隠れするところです!
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そう、実は手術より遡ること9年前、まだ学生だった「私」と高峰が植物園へ出かけた時に、見物にやって来ていた令嬢、つまり後の伯爵夫人と出会っていたのです!
若かりし頃の夫人のあまりの美しさを前に、当時の高峰は興奮しきりでした。
「ああ、真の美の人を動かすことあのとおりさ、君はお手のものだ、勉強したまえ」
夫人のことを、「真の美の人」と褒め称えています。
夫人と高峰がすれ違う際に、高峰が思わず振り返ってしまう、という描写もあるので、きっとその一瞬で、強く心を奪われてしまったのでしょうね。
しかしそれ以来、高峰と夫人が会うことは、一切ありませんでした。
そう、あの運命の手術の日まで。
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植物園で夫人を見かけて以降、高峰が「私」に、彼女の話題を振ることはありませんでした。
医師となった後も、本来ならば結婚して子どもがいても不自然ではない年齢になっても、高峰は独身を貫いていました。
女遊びをすることは決してなく、むしろ年を重ねるごとに、その行いは品行方正になっていくのでした。
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「私はね、心に一つ秘密がある。痲酔剤は譫言を謂うと申すから、それがこわくってなりません」
麻酔を打たれると、隠してきた秘密をぽろっと言ってしまうかもしれない……。
夫人は作中で、その「秘密」を、夫にも言えぬことだと告げています。
夫にも教えられぬ、夫人の秘密……それはズバリ、「9年間、高峰に心を寄せ続けてきたこと」でしょう。
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こうした事情があったため、夫人は頑なに麻酔を拒んでいたのですね。
また、夫人が自害してしまったその日、高峰も同様に、この世を去ってしまったのでした。
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高峰が、いつどの時点から、夫人が9年前の彼女だと気付いていたのかは分かりません。
しかし、夫人が「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」と叫んで胸を切った時、高峰は青ざめながらも、「忘れません」とハッキリ言ったのでした。
はじめから、夫人があの時の彼女だと分かっていたのか……それとも、夫人の最期の言葉を聞いて、ようやく気付いたのか……。
どちらの可能性も考えられますが、私自身は、前者かなと思っています。
高峰は、愛する彼女のたってのお願いだったから、通常ではありえない、「麻酔なしの手術」に臨んだのではないかと……。
彼女が隠しておきたい「秘密」についても分かっていたから、彼女の意思を汲んであげたのではないかと……。
そう思わずにはいられません。
「外科室」のココがエモい!
「外科室」のエモポイントは、なんといっても伯爵夫人のかわいすぎる乙女っぷりです!
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それでは改めて、夫人が麻酔を拒む場面について見てみましょう!
「そんなに強いるなら仕方がない。私はね、心に一つ秘密がある。痲酔剤は譫言を謂うと申すから、それがこわくってなりません。どうぞもう、眠らずにお療治ができないようなら、もうもう快らんでもいい、よしてください」
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「わしにも、聞かされぬことなんか。え、奥」
「はい。だれにも聞かすことはなりません」
夫人は決然たるものありき。
「何も痲酔剤を嗅いだからって、譫言を謂うという、極まったこともなさそうじゃの」
「いいえ、このくらい思っていれば、きっと謂いますに違いありません」
「そんな、また、無理を謂う」
「もう、御免くださいまし」
こう言い捨てて、夫人はベッドの上で寝返りをして顔を逸らしてしまうのです。
「このくらい思っていれば、きっと謂いますに違いありません」というひと言から、夫人の高峰への気持ちが痛いほど伝わってくるようですね。
尚も、夫人への説得は続きますが……。
「お胸を少し切りますので、お動きあそばしちゃあ、危険でございます」
「なに、わたしゃ、じっとしている。動きゃあしないから、切っておくれ」
(略)
「それは夫人さま、いくらなんでもちっとはお痛みあそばしましょうから、爪をお取りあそばすとは違いますよ」
夫人はここにおいてぱっちりと眼をひらけり。気もたしかになりけん、声は凛として、
「刀を取る先生は、高峰様だろうね!」
「はい、外科科長です。いくら高峰様でも痛くなくお切り申すことはできません」
「いいよ、痛かあないよ」
ここで夫人は、自分の手術をする外科医は高峰か、という確認を取っていますね。
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夫人の頑なな態度に周囲が辟易し始めた頃、ずっと事態を静観していた高峰が、ついに立ち上がります。
「看護婦、メスを」
「ええ」
(略)
看護婦はおどおどしながら、
「先生、このままでいいんですか」
「ああ、いいだろう」
「じゃあ、お押え申しましょう」
医学士はちょっと手を挙げて、軽く押し留とどめ、
「なに、それにも及ぶまい」
おどおどとする看護師をよそに、毅然とした態度で、高峰が手術を始めました。
そうして、手にしたメスを夫人の身体に入れる前に、彼女と言葉を交わします。
「夫人、責任を負って手術します」
ときに高峰の風采は一種神聖にして犯すべからざる異様のものにてありしなり。
「どうぞ」と一言答えたる、夫人が蒼白なる両の頬に刷けるがごとき紅を潮しつ。
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しかし、やはり麻酔なしの手術には、激痛が伴います。
「あ」と深刻なる声を絞りて、二十日以来寝返りさえもえせずと聞きたる、夫人は俄然器械のごとく、その半身を跳ね起きつつ、刀取れる高峰が右手の腕に両手をしかと取り縋すがりぬ。
「痛みますか」
「いいえ、あなただから、あなただから」
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「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」
謂うとき晩おそし、高峰が手にせるメスに片手を添えて、乳の下深く掻き切りぬ。医学士は真蒼になりて戦きつつ、
「忘れません」
その声、その呼吸、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人はうれしげに、いとあどけなき微笑を含みて高峰の手より手をはなし、ばったり、枕に伏すとぞ見えし、脣の色変わりたり。
そのときの二人が状、あたかも二人の身辺には、天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし。
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最愛の人と一緒になることは叶わなかった夫人ですが、最後の最期に、当の本人に気持ちを伝えることができ、そして「忘れません」という、この上ないほどに素敵なお返事をもらえたのでした。
残念ながら死に別れてしまった2人ですが、現世では一緒になれなかったことを考えると、この形の終わり方が、本人たちにとってはハッピーエンドだったのかもしれませんね。
まとめ
以上、泉鏡花「外科室」の紹介でした!
泉鏡花の文体は難しくて、読むのになかなか苦労しますが、内容はとっても面白かったり切なかったり妖しかったりととてもバラエティーに富んでいるので、気になった方はぜひぜひ読んでみてくださいね!
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