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「皮膚と心」のあらすじ
「皮膚と心」は、太宰治が1939年頃に書いた短編小説です!
今からおよそ80年前の小説ですが、とてもそんな昔に書かれたとは思えない、非常にリアルで親近感のある語り口が魅力的な作品です。
この小説の主人公は、28歳の女性。
お見合いで結婚した旦那さんとともに、慎ましい生活を送っています。
それでは、「皮膚と心」のあらすじをざっくり見ていきましょう!
あらすじ
主人公である女性の身体に、ある日ポツッと吹き出物ができました。
はじめはあまり気にしていなかったものの、お風呂でその吹き出物をよくこするうちに、だんだんと吹き出物が身体中に広がっていってしまいました。
元来、自分の容姿に自信のない主人公は、その吹き出物ができたことでますます自分が醜くなってしまったと、ひどく落ち込みます。
旦那に相談しても、吹き出物の原因は分からなかったため、一緒に病院へ行くことになりました。
病院の待合室で診察を待っている間、主人公は、旦那のこと、「女」という性、果ては生と死に関することなど、さまざまなことに思いを巡らせます。
そうしているうちに、診察の順番が回ってきました。
医師の診断は、「中毒(アレルギー)」とのことで、その場で治療として注射を打ってもらいました。
病院を出る頃にはもう、吹き出物の症状も治り始めているのでした。
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「皮膚と心」の見どころは?
このお話の見どころは、なんといっても非常にリアルで生々しい女性心理の描写です。
筆者である太宰治は男性ですが、彼は「女性心理の描写において右に出る者はいない」と言われており、繊細で移り気な女性の気持ちを、とても丁寧に表現できる天才なのです!
この点に関しては、実際の本文を見たほうが早いかと思いますので、以下にいくつか引用させていただきますね。
まずは、主人公の女性が、初めて自分の身体に吹き出物を発見した時の場面について見てみましょう。
真赤に熟れて苺みたいになっているので、私は地獄絵を見たような気がして、すっとあたりが暗くなりました。そのときから、私は、いままでの私でなくなりました。自分を、人のような気がしなくなりました。
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作中の本文にて明言はされていませんが、どうやらこの女性、わりと重度の「集合体恐怖症」のようなのですね。
「虫食った葉」や「蜂の巣」が嫌いで、ふりがなさえも「シラミみたい」と気持ち悪がり、月の拡大写真を見て「吐きそうになった」こともあるというほど……!
そんな彼女の身体に、彼女が何より嫌う「集合体」が生まれ始めたのですから……ショックを受けるのも無理はないですよね。
また、女性は「かゆみ」について、以下のように語っています。
痛さと、くすぐったさと、痒さと、三つのうちで、どれが一ばん苦しいか。そんな論題が出て、私は断然、痒さが最もおそろしいと主張いたしました。だって、そうでしょう? 痛さも、くすぐったさも、おのずから知覚の限度があると思います。(略)けれども痒さは、波のうねりのようで、もりあがっては崩れ、もりあがっては崩れ、果しなく鈍く蛇動し、蠢動するばかりで、苦しさが、ぎりぎり結着の頂点まで突き上げてしまう様なことは決してないので、気を失うこともできず、もちろん痒さで死ぬなんてことも無いでしょうし、永久になまぬるく、悶えていなければならぬのです。
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作中で時間が経過するとともに、女性の吹き出物はどんどんひどい有様になっていきます。
病院に行く日の朝方、早くに起きた女性が鏡の前で自分の姿を見た時の場面がこちらです。
私は、お化けでございます。これは、私の姿じゃない。からだじゅう、トマトがつぶれたみたいで、頸にも胸にも、おなかにも、ぶつぶつ醜怪を極めて豆粒ほども大きい吹出物が、まるで全身に角が生えたように、きのこが生えたように、すきまなく、一面に噴き出て、ふふふふ笑いたくなりました。そろそろ、両脚のほうにまで、ひろがっているのでございます。鬼。悪魔。私は、人ではございませぬ。このまま死なせて下さい。
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また、この主人公の女性には、年上の旦那さんがいます。
この旦那さん、実は主人公と結婚する前、別の女性と6年間、同棲していたんですね。
しかし、主人公の女性曰く、「せんの女のひとのことなど、ほんとうに、これぼっちも匂わしたことがございません」とのこと。
おかげで女性も、日常の中では旦那の過去を忘れることができるのだそうで、とても思いやり深く、優しい心を持った男性なのだということが分かります。
女性も、行き遅れた自分と結婚してくれた旦那に、日頃から感謝はしているのですが、吹き出物ができ始め、精神が不安定になると、優しい旦那に対してこんなことを思うように……。
だまされた! 結婚詐欺。唐突にそんなひどい言葉も思い出され、あの人を追いかけて行って、ぶってやりたく思いました。(略)いま急に、あの人が、最初でないこと、たまらぬ程にくやしく、うらめしく、とりかえしつかない感じで、あの人の、まえの女のひとのことも、急に色濃く、胸にせまって来て、ほんとうにはじめて、私はその女のひとを恐ろしく、憎く思い、これまで一度だって、そのひとのこと思ってもみたことない私の呑気さ加減が、涙の沸いて出た程に残念でございました。くるしく、これが、あの嫉妬というものなのでしょうか。
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「皮膚と心」は、一貫してこのように、不安定に揺れ動く女性の心理を、とても繊細に、丁寧に、克明に描き切っています。
女性特有の、気持ちがふらふらあっちに行ったりこっちに行ったりするさまを、これほど正確に書き上げられるのは、やはり太宰の腕と観察眼、想像力があってのことですね!
「皮膚と心」のココがエモい!
「皮膚と心」のエモポイントは、控えめな妻と、気が弱くも優しい旦那さんの、かわいらしいやり取りです!!
吹き出物ができてしまったことで激しく落ち込む主人公の女性に対し、旦那さんが不器用ながらもとても真剣に、優しく向き合ってくれる様子は、もう女性なら胸をときめかせずにはいられません!!
旦那さんがいかに優しく、語り手の女性のことを想ってくれているか、ということについては、本文の中で幾度もうかがい知ることができます。
あの人は、私のからだのことに就いては、いつでも、細かすぎるほど気をつけてくれます。ずいぶん無口で、けれども、しんは、いつでも私を大事にします。
普段は無口で無骨な人だけれど、妻が困っている時には親身になって一緒に考えてくれるなんて、とても素敵な男性ですよね。
吹き出物について相談した女性に対し、実際に旦那さんが吹き出物に触って確かめる場面では、「うつらないものかしら」と心配する女性に、「気にしちゃいけねえ」と優しく返してくれました。
また、容姿に自信のない妻に対して、こんな言葉をかけてあげたこともあるようです。
あの人は、かねがね私の醜い容貌を、とても細心にかばってくれて、私の顔の数々の可笑しい欠点、――冗談にも、おっしゃるようなことは無く、ほんとうに露ほども、私の顔を笑わず、それこそ日本晴れのように澄んで、余念ない様子をなさって、
「いい顔だと思うよ。おれは、好きだ。」
そんなことさえ、ぷつんとおっしゃることがあって、私は、どぎまぎして困ってしまうこともあるのです。
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夫婦そろって自信がなく、(略)あの人は、たまには、私にうんと甘えてもらいたい様子なのですが、(略)あの人の自信のない卑下していらっしゃる様子を見ては、こちらにも、それが伝染しちゃって、よけいにぎくしゃくして来て、どうしても無邪気に可愛く甘えることができず、心は慕っているのに、逆にかえって私は、まじめに、冷い返事などしてしまって、すると、あの人は、気むずかしく、私には、そのお気持がわかっているだけに、尚なおのこと、どぎまぎして、すっかり他人行儀になってしまいます。
お互いに自分を卑下してしまっているからこそ、素直に相手に甘えられない夫婦の姿は、見ていてもどかしいものがありますね。
旦那さんも語り手の女性をかわいく思っていることでしょうし、女性も旦那さんに甘えたいとは思いつつも、どこかお互い自分に自信がないため、なかなか愛情表現ができずにいます。
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「よし。泣くな! お医者へ連れていってやる。」あの人の声が、いままで聞いたことのないほど、強くきっぱり響きました。
普段は寡黙で、自分に自信のない旦那さんですが、悲痛に泣く妻を見て、今までにないほどの「強さ」「男らしさ」を見せてくれます。
病院へ行くまでの道中に、人に吹き出物を見られたくないから「電車は、いや」と申し出る妻に対し、明るく「わかってるさ」と返し、自転車に乗せてくれる旦那さんの姿は、イケメンというよりほかはありません!!
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「からだを、みんな見せなければいけないかしら」
「そうよ。」あの人は、とても上品に微笑んで答えました。「お医者を、男と思っちゃいけねえ。」
私は顔を赤くしました。ほんのりとうれしく思いました。
乙女心から、医者とはいえ見知らぬ男性に肌を見せることを恥じらう妻に、「お医者を、男と思っちゃいけねえ」と優しくフォローしてあげる旦那さん……。
この言葉に女性が「顔を赤くし」、「ほんのりとうれしく」思うさまは、見ているだけで胸が温かくなるようですよね!
「皮膚と心」はどんな人にオススメ?
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- 堅苦しい文体が苦手で、柔らかい文体のお話を読みたい人
- 恋愛小説を読んでキュンキュンしたい人
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まとめ
以上、太宰治の「皮膚と心」の紹介でした!
私は太宰の、「いつ句読点くるんだ!?」って感じの長ーーい文章が大好きです。
思考のとりとめのない感じが、すごくリアルに表現されているようで。
なので、それを胸キュンしながら思う存分味わうことができる「皮膚と心」は、非常にありがたい作品でもあります。
太宰の「女性の一人称」作品はすごく読みやすいことが特徴なので、またの機会に別の作品も紹介させていただきますね!
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