今回は、芥川龍之介の「蜜柑」というお話について紹介します!
芥川龍之介というと、「羅生門」や「鼻」などの作品が有名ですね。
「そういや国語の時間に読んだわ~」という方も多いのではないでしょうか?
純子
蜜柑
というわけで今回は、爽やかな読後感が魅力的な「蜜柑」のあらすじや見どころポイント、めちゃエモポイントについて紹介させていただきます!
純子
「蜜柑」のざっくりあらすじ
まずは、「蜜柑」のあらすじについて見ていきましょう!
先ほど純子が紹介した通り、「蜜柑」は芥川の体験を描いた作品で、舞台は神奈川県の横須賀駅です!
芥川は当時、神奈川県の横須賀市に勤務していたため、頻繁に横須賀線を利用していたんですね。
「蜜柑」は、いつものように芥川が横須賀線に乗車していた際に起こった出来事について書かれています。結構マジのエッセイです。
私も堅苦しいのは苦手なので、めちゃくちゃざっくり!ライトに!分かりやすく!あらすじを紹介させていただきますね!
あらすじ
ある冬の日の夕暮れ、語り手である「私」こと芥川は、横須賀を出発する列車に乗り込み、発車を待っていました。
空には厚く雲が垂れこめ、辺りは薄暗く、駅のホームには檻に入れられた犬が1匹いるばかりで、人気はまったくありません。
その陰鬱な風景に自分の心情を重ねた芥川は、疲労と倦怠感から、夕刊を読む気にもなれず、シートに身を預けます。
列車が発車するのと時を同じくして、車両に1人の少女が乗り込んできました。
芥川の目の前の座席に腰かけた、およそ13~14歳の少女は、ひっつめ髪にしもやけの手、赤ら顔に垢じみた襟巻という、いかにも「田舎者」といった風貌で、芥川はそのみすぼらしい姿に嫌悪感を抱きます。
彼女の存在を気にかけまいとする芥川でしたが、列車がトンネルの中に滑り込むと、少女は芥川の隣の座席に移動し、なぜか必死に窓を開けようとします。
そんな少女の様子を、冷ややかな目で見つめる芥川。
悪戦苦闘の末、窓は開きましたが、その途端、列車のどす黒い煙が車内に入り込んでしまい、芥川はひどく咳き込みます。
いよいよ少女への苛立ちが抑えきれず、彼女を頭ごなしに叱りつけようとした、その時でした。
列車がトンネルを抜けると、ある貧しい町の踏切に差しかかり、その踏切の前には、少女と同じような赤い頬をした3人の小さな男の子たちが立っていました。
彼らが列車に向かって手を挙げ、大声で叫ぶと、列車から身を乗り出した少女が、懐に隠し持っていた5、6個の蜜柑を、男の子たちに放ってあげたのです。
芥川はその時初めて、少女がこれから奉公先へ向かうであろうこと、わざわざ見送りに来てくれた小さな弟たちに、隠し持っていた大事な蜜柑を分け与えたのだということを悟りました。
その光景を見た芥川は、先ほどまで抱いていた陰鬱な気持ちも忘れ、「得体の知れない朗らかな気持ち」が湧き上がってくるのを感じたのです。
純子
「蜜柑」の見どころポイント
一般的に、「蜜柑」の見どころというと、やはり「物語の始まりと終わりで、芥川の気持ちが『陰鬱』から『朗らか』に変化したところ(細やかで丁寧な心理描写)」が挙げられると思います。
確かに、この気持ちの移り変わりを描く技術というのは本当に素晴らしいです!
実際に文章を読んでみると、本当に芥川と一緒に憂鬱な気持ちになったり、少女にイライラしたり、ラストでは晴れやかな気持ちになったりできます。
感情移入のさせ方が非常に巧みで、さすが文豪!といったところです。
が、私的な「蜜柑」の見どころポイントは、「少女にイライラする芥川のものすごくリアルな心理描写」なんですね!
蜜柑
純子
私はこの小娘の下品な顔だちを好まなかつた。
それから彼女の服装が不潔なのもやはり不快だつた。
最後にその二等と三等との区別さへも弁へない愚鈍な心が腹立たしかつた。
だから巻煙草に火をつけた私は、一つにはこの小娘の存在を忘れたいと云ふ心もちもあつて、今度はポツケツトの夕刊を漫然と膝の上へひろげて見た。
「顔も下品、服も不潔」と、女の子に対してひどい言い様です。
蜜柑
純子
また、少女の存在に苛立った芥川が、先ほどまでは読む気力がなかった夕刊をここで取り出すというのも、非常にリアルな感じがしますよね。
近くに腹立たしい人が来た時、その存在を見ない・意識しないために、あえて別のことをやり始める、なんてこと、どなたでも経験があるのではないでしょうか?
純子
だから私は腹の底に依然として険しい感情を蓄へながら、あの霜焼けの手が硝子戸を擡げようとして悪戦苦闘する容子を、まるでそれが永久に成功しない事でも祈るやうな冷酷な眼で眺めてゐた。
純子
蜜柑
純子
蜜柑
純子
「蜜柑」のココがエモい!
「蜜柑」のめちゃエモポイントはズバリ、「めちゅくちゃ荒んでいた芥川の気持ちが、少女が弟たちを思いやる温かな優しさによって癒されたところ」です!
少女に対して、下品だ不潔だ汚らしいと散々な酷評を浴びせた芥川でしたが、物語の最後、少女が自身の弟たちに蜜柑を投げてやるところを見ると、少女への気持ちが一変します。
まず注目したいのが、少女が蜜柑を投げる時の描写!
窓から半身を乗り出してゐた例の娘が、あの霜焼けの手をつとのばして、勢よく左右に振つたと思ふと、忽ち心を躍らすばかり暖な日の色に染まつてゐる蜜柑が凡そ五つ六つ、汽車を見送つた子供たちの上へばらばらと空から降つて来た。私は思はず息を呑んだ。
純子
蜜柑
蜜柑を「橙色」と表現せず、お日さまの色に例えることによって、このシーンの温かみがより際立ちます!
暮色を帯びた町はづれの踏切りと、小鳥のやうに声を挙げた三人の子供たちと、さうしてその上に乱落する鮮やかな蜜柑の色と――すべては汽車の窓の外に、瞬く暇もなく通り過ぎた。が、私の心の上には、切ない程はつきりと、この光景が焼きつけられた。さうしてそこから、或得体の知れない朗らかな心もちが湧き上つて来るのを意識した。
一文目の、「暮色を帯びた~蜜柑の色と――」がもう、素敵すぎます!!
夕暮れの町はずれで、はしゃぐ子供たちと、その上に降り注がれる5、6個の蜜柑、という光景が、目に浮かぶようですね……空気感さえも伝わってくるようです。
純子
少女の身の上をなんとなく察した芥川は、偏見の眼鏡を外し、もう一度少女に目をやります。
私は昂然と頭を挙げて、まるで別人を見るやうにあの小娘を注視した。小娘は何時かもう私の前の席に返つて、不相変皸だらけの頬を萌黄色の毛糸の襟巻に埋めながら、大きな風呂敷包みを抱へた手に、しつかりと三等切符を握つてゐる。…………
私はこの時始めて、云ひやうのない疲労と倦怠とを、さうして又不可解な、下等な、退屈な人生を僅に忘れる事が出来たのである。
蜜柑
純子
少女の出で立ちは先ほどまでとまったく変わらないのに、その人が抱える背景や想いを知ると、見方ってこんなに変わるものなんだなとしみじみ思いますね……。
はじめは野暮ったくて芥川をイラつかせるばかりの少女でしたが、最後の最後に、彼女自身も知らないところで、芥川のささくれだった心を癒してくれたのでした。
「蜜柑」はどんな人にオススメ?
純子
- 目まぐるしい日常に疲れている人
- 他人の言動にいちいちイライラしてしまう、心に余裕のない人
純子
蜜柑
純子
蜜柑
純子
まとめ
以上、芥川龍之介「蜜柑」のお話紹介でした!
「蜜柑」を知らなかった人には知るきっかけに、知ってたけどそこまで深く考えたことなかったな~という方には、新たな気づきを得る一助になれていれば幸いです!
「蜜柑」は本当に短いお話で、10分もあればサクッと読めてしまうと思いますので、夜寝る前や、それこそ電車での移動中などに、ぜひぜひ読んでみてください!
純子
蜜柑
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